毎年恒例の紅白歌合戦。なぜ赤色と白色という色分けなのだろうか。
そんなことを気にしたことは、ないのではないだろうか。赤組白組に分かれて対抗戦をするのは、紅白歌合戦に限られてものではないし、誰もが幼い頃から、保育園や幼稚園の運動会で体験している。二組に分かれて対抗戦をする時は、赤組と白組に分かれることを知っているし、それが当たり前だと思っている。別段、気に留めることではない。
そんなことを気に留めるようになったのは、数年前に『なぜ、日本人は?―答えに詰まる外国人の質問178』という本を読んでからだ。本には、紅白で分かれるのは源平合戦が起源とされているのだから、青白になるはずだと書かれていた。
本に書かれているように、紅白対抗戦の色分けは源平合戦が起源とされている。平氏が赤い旗を使ったのに対し、源氏が白い旗を使ったのがその起源だといわれている。本の著者が言うには、源氏は東国の武士で平氏は西国の武士なのだから、東西対抗になる訳で、その色分けは青白となるべきだ、ということらしい。
平氏や源氏が使った旗には日の丸が入っていて、それぞれが、自分の軍が日本を取り仕切るべきなのだと、大義名分や権威、宣伝が含まれたものであるから、それを東西で色分けするのはまた別なのではないかと思う。
しかし、おかげで、言われてみれば紅白歌合戦の紅白という色分けは、少し違うような気もしてくる。というのも、正月にはおめでたいという意味で紅白が使われるからだ。
正月は新年を迎えるおめでたい時であるから、正月飾りには紅白の色が欠かせない。おめでたい時に使われる紅白という色も、日本人にとっては特に気にするまでもないほど、当たり前のものである。入学式や卒業式、竣工式では紅白幕が使われるし、お祭りや縁日でも使われる。贈答には紅白結びが使われるし、紅白饅頭もお祝い事で使われる。
そんなおめでたいことを表す紅白という色を、年末の歌合戦で使うことに、違和感があっても不思議ではないと思う。おめでたいのかチーム対抗戦なのか、ごっちゃになってしまい、外国人からすると、疑問や違和感があっても当然に思える。
本の著者がいう、東西対抗なのだから青白になるはずだというのは、日本では(中国もだが)、東西南北が色と深く関わっているからだ。東西南北にはそれぞれ青・白・赤・黒という色の配置がある。勘のいい人ならこの色でお分かりだと思うが、これは四神という架空の生きものを表している。
東は青龍、西は白虎、南は朱雀、北は玄武と、それぞれの方角の護り神の色を表している。京都の朱雀門は平安京の南の門だし、東京の虎ノ門は江戸城の外壁の西にあった門の名前が由来となっている。
この東西南北に架空の生きものを配置する四神相応というものは、風水の考え方である。風水というと、今では迷信・まじないというイメージがあり、神頼みのような感覚があるが、本来は都を造る時の地理的な判断基準になるものである。
平安京も江戸城も風水によって場所が決められたとされているが、東には清流(青龍が棲む)、西には大道(白虎が棲む)、南には平野(朱雀が棲む)、北には丘陵(玄武が棲む)がある場所が都を造るのには適していると説いている。
洪水や土砂崩れなどの災害を避け、物資の運搬をスムーズに行い、より多くの作物を収穫し経済を潤し、軍事の面では防御しやすくするといった、地理的優位な場所を知るための一つの判断基準だったと思われる。
毎年特に気にすることもなく耳にする紅白歌合戦。紅白という色を改めて考えてみると、日本の歴史や文化が少し分かる気がする。
ついでに、『なぜ、日本人は?―答えに詰まる外国人の質問178』では、色が方位を表すことについて触れているが、その例として、黒海と紅海を挙げている。黒海は北に位置するから黒と書き、紅海は南に位置している紅(赤)と表記するのだと。黄海や白海についての記述がないのは残念なのだが…。
普段気にも留めないことを意識させてけれて面白い本だと思う。他にも、わびさびやおじぎ、正座やおしぼりなど、日本の文化や風習についても考えるきっかけをくれる本である。日本人はなぜ小さいものが好きなのか、本音と建て前があるのか、年齢をすぐ聞くのか、といったことについても触れているし、なぜカメラや貯金、ブログが好きなのかについても書かれている。茶髪にする理由や大学生が勉強しない理由についても書かれていて、日本人について知りたい人や、外国人に日本のことを説明する機会が今後ありそうな人におすすめの本でもある。
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