【小話】平安時代 疫病で広まるデマ

コロナウイルスが蔓延して生活に影響が出るようになってから約1年半が経ち、思い返してみればいろいろなデマがあったものだと思う。海藻のアオサが効く、ポリフェノールがいい、首に下げてコロナウイルスを除菌、マイナスイオン発生器でコロナウイルスは死滅、なんて表示で消費者庁から注意喚起が出されたものがいろいろあった。

酷いものだと、コロナウイルスは非常に熱に弱く26~27℃の温度で殺傷する、だから沢山お湯を飲んでください、なんていうものもあった。コロナウイルスが26~27℃で死滅するのであれば、36℃前後の人間の体内になぜ感染するのだろうか。

これだけ科学も医療も発達して、正しい情報に簡単にアクセスできるようになった現在でも不安を煽られるとデマに流されてしまうことがある。ウイルスという目に見えないものに対する恐怖というものを、今回のコロナ禍で自分も多少なりとも体感した。

古代の科学も医学も正しい知識が今よりも格段に少ない時代なら、デマが広まるのも尚更のことだろう。『日本の歴史5 王朝の貴族』には、平安時代に疫病が蔓延して死体が道に溢れた時に広がったデマが書かれている。

左京三条に汚くて誰も飲めないような井戸があった。泥で濁りとても飲めるものではなかったが、誰が言い出したのか、この水を飲めば疫病を免れるという噂が立り、京中の男女貴賤が競って桶やたらいを担いで押し寄せた。また別の日には、今日は疫病神が通るぞというデマが飛び、公卿以下庶民に至るまで戸を閉めて家に閉じこもり、人の往来が絶えた。

コロナウイルスとは無縁だった以前であれば、このような話を読んでも昔の人は迷信深く愚かだったんだなと片づけていたが、コロナ禍の現在はそのような非合理的な人間の行動に共感できるし、納得できる。同時に、平安時代の人に親近感も少し持ててしまう。

怨霊や鬼を恐れ、迷信深く、時間から方角から曜日からと何かと吉凶を気にして生活していた平安貴族の本をこの際、読んでみるのも面白いのかもしれない。

参考文献
土田直鎮『日本の歴史5 王朝の貴族』中公文庫

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