熊野詣について調べていると、次から次へと興味のあることが出てきて、その都度、本を買ったり借りたりした。その道の専門家が書いた文章は説得力があるし、分かりやすい。熊野信仰の歴史や遊行聖について興味を持った方は、今回調べる際に読んだ本をまとめたので、参考にしてもらえたらと思う。
表記の順番は「旅の拾いもの」に出てきたものから書いている。可能な限りそれぞれのレビューを別のページで書いてみたいと思う。しばらく後になるが、「本のレビュー」というカテゴリーを作り投稿したいと思う。
参考文献
小山靖憲『熊野古道』岩波新書(2000年)
熊野詣の一通りの歴史が分かる本。地元の人の参詣から貴族、上皇、武家と年を追って熊野詣の大まかな流れを書いているので、一連の流れを掴みやすい。
また、女性や社会的弱者の参詣についても触れており、出典を明記しているためいつ庶民がどのように熊野詣をしていたのか知ることができる。
熊野三山の組織体系や承久の乱後の衰退などについても、理解の助けになった。
五来重『熊野詣―三山信仰と文化』講談社学術文庫(2004年)
副題にあるように熊野三山の信仰をメインにしている。苦行や滅罪といったことから修験について知ることができるし、捨身というものから霊場でどんなことが行われていたのかも、知ることができる。
各テーマごとに文章が書かれているので、一連の流れを掴むには時間がかかったが、風葬や水葬といったことも知ることができる。
梅原猛『日本の原郷 熊野』新潮社(1990年)
熊野詣を調べる時に参考になると紹介されることの多い本。絶版のため図書館で借りたため、それほど読み込むことができなかった。作者は哲学者ということで、熊野詣を歴史の流れと信仰の説明から述べている。個人的には読みやすいものではなかったが、絵巻や曼荼羅、写真が豊富でカラーなのでビジュアルで熊野を知るにはいい本だと思う。
呉座勇一『日本中世への招待』朝日新書(2020年)
直接熊野詣には触れていないが、中世という時代を知るのにはおすすめの一冊。貴族が講を組んで旅をしたことや、戦国武将で戦上手と名高い島津家久が長旅をして信長を陰から見た話なども書かれていて、面白い。大名が関所を通過し宿に泊まるといった、戦国期の大名の長旅の様子も知ることもできる。
旅以外のことも広く書かれていて、それぞれの項目が短く、そして読みやすくまとめられているので、中世の入門書としておすすめの一冊。更に詳しく知りたい人のために、参考になる本や著者を紹介しているのも嬉しい。
上念司『経済で読み解く織田信長』KKベストセラーズ(2017年)
多少笑いを入れながら読みやすく経済や歴史を解説することで知られている著者による、中世の本。寺社勢力について知ることができる。
なぜ寺社が勢力を大きなものにすることができたのか、その過程を知ることができるし、時代によっていろいろな寺社勢力が利権争いをしていたことも知ることができる。
勿論、景気が良かったのか悪かったのかいった、経済面から中世の社会情勢を知りたい人にもおすすめの本。
笹本正治『日本の中世3 異郷を結ぶ商人と職人』中央公論新社(2002年)
読みやすさはないが、時代背景を知れる本。職人は寺社を頼り、寺社の後ろ盾で物を作り、寺社の名前を借りて商売することから、寺社と商人の関係を知ることができる。
他国へ赴いて物を売り歩く商人が殺されることや、人さらいが商売として成立していたことなど、物騒なことも書かれている。
大島延次郎『関所―その歴史と実態』(1995)新人物往来社
古代から近世までの関所の一通りの説明をしている本。大半は江戸時代の五街道の関所について書かれているため、古代や中世についての記述は多くない。
山伏が関所を無料で通過できたことや、関所の利権を巡って豪族と寺社が争ったことなどが書かれている。
大橋俊雄『一遍聖』講談社学術文庫(2001年)
決して読みやすい本ではないが、一遍と彼の死後成立した教団について書かれている本。一遍一行がどのような構成で各地を布教したのか、どのように生活していたのかを知ることができる。
また、教団が成立した背景についても、当時の社会情勢を含めて知ることができる。
伊藤正敏『寺社勢力の中世―無縁・有縁・移民』ちくま新書(2018年)
幕府や朝廷を凌駕する中世の寺社勢力について、知ることができる一冊。当時の寺社は技術や文化が最先端でそこから生まれたものは大きい。軍事力も経済力もある。簡潔に書かれているが、読み応えのある本。
寺社勢力を、学侶・行人・聖に分けていて、それぞれがどのような活動をしていたか書いているので、寺社という漠然とした大きなものを理解する手助けとなった。
五来重『高野聖』角川ソフィア文庫(2011年)
著者の本を読むと、聖の活動について詳しく知ることができる。聖といっても、その種類は様々だ。いろいろな聖がいて、宗派も活動も決して一緒ではないが、そういったことをこの本から知ることができる。
ただ、ただでさえ聖にいろいろなタイプがあるのに、高野聖をさらに時代や宗派(寺といっても、その中にいろいろな勢力があった)に分けて説明しているので、読むのが大変でもある。
五来重『日本の庶民仏教』講談社学術文庫(2020)
読みやすい本ではないが、庶民にとっての身近な仏教について知ることができる。庶民に根ざした仏教は呪術的でもあり、聖は術者としての面もある。霊場で苦行をしたり海で入水自殺をしたりするのは、そのためである。庶民も聖に術者としての役割を期待している。
高野山にはなぜ鳥居があるのか、高野山の槇は何なのか、各地に弘法大師伝説があるのはなぜなのか、そんなことについても知ることができる。
五来重『仏教と民俗―仏教民俗学入門』角川ソフィア文庫(2010)
先の『日本の庶民仏教』よりも読みやすく、聖の活動を知ることができる本。苦行や滅罪、作善や勧進など、どういった思想でそれが行われたのかや、なぜ庶民に受け入れられてのかを知ることができる。
聖にはいろいろなタイプや生い立ちの者がいたことや、巡礼の旅についてなども知ることができる。
栂嶺レイ『誰も知らない熊野の遺産』ちくま新書(2017年)
写真家であり医師でもある著者が自分の足を使って熊野の地を調べた本。歴史専門家による本ではないため、堅苦しさはなく読みやすい。扱っているテーマも地元の人にとっての熊野という、馴染みのあるものになっている。熊野比丘尼、廃仏毀釈、湯の峰温泉などの、熊野詣に関することも書かれている。
伊藤正敏『無縁所の中世』ちくま新書(2010)
先の『寺社勢力の中世―無縁・有縁・移民』では寺社という大きな存在について書かれているが、この本では寺社勢力が朝廷や幕府に与えた影響についても書かれている。武力では幕府や武士より劣るのになぜ寺社がでかい顔をしていたのか、そんなことを知ることができる。そして、朝廷と幕府と寺社がどのような関係だったのかを知ることで、中世という時代が分かるようになる。
ついでに、参考資料(サイト)も。
『熊野学』研究資料.熊野信仰の展開.図と表で見る熊野信仰.熊野関係荘園分布図
https://www.city.shingu.lg.jp/div/bunka-1/htm/kumanogaku/index.html
熊野三山の各地の荘園や檀那売券の内容を見ることができる。
近藤祐介『熊野参詣の衰退とその背景』
https://www.gakushuin.ac.jp/univ/let/rihum/kondo-jinbun14.pdf
熊野詣が衰退したその過程について説明している。先達が村に溶け込んでいく様子も書かれていて、聖の一面を知ることができる。
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