【旅の拾いもの】木に注目すると楽しい奈良の旅②

奈良県

唐招提寺から北に30分ほど歩くと、平城宮跡歴史公園(旅日記はこちら)がある。だだっ広い敷地に平成に復元された建物が建ち異様さを感じる場所だが、この復元された建物が凄い。平成10年に復元された朱雀門には、直径70cmの柱18本をはじめ吉野檜や木曾檜が使われており、平成22年の第一次太極殿の再建には直径70cmの檜が44本使われている。

実はこれで寺院のような大きな建築に使えるような国産の檜を、ほぼ使い切ってしまった。先に再建した朱雀門に使われた国産檜は樹齢400年前後、第一次太極殿で使われたものは樹齢230~300年のものだ(『木の国の物語』)。

そんな貴重な檜を使うくらい平城宮跡には歴史的価値があるのだが(詳しくは後日書きます)、訪れた際には、その貴重な檜を是非鑑賞していただきたい。

そして奈良の大仏で知られる東大寺(旅日記はこちら)。参拝者を迎え入れる鎌倉時代に再建された壮大な南大門には、樹齢800年の檜が使われている(この南大門の大仏様という工法と柱に残る火縄銃の弾痕も是非見て欲しい)。直径1メートル近くある柱が屋根まで真っすぐ伸びていて、柱に触れて上を見上げると感動を覚える。

その立派な木はどこから持って来たのか調べても分からなかったが、大仏殿の柱の方が備前国や周防国から持って来たから、同様に遠くから運んできたと思われる。鎌倉時代には奈良周辺には大きな建物に使える木が既になくなっていたのだ。
※備前国:現在の岡山県東南部、兵庫県赤穂市、瀬戸内海の島の一部
 周防国:現在の山口県

東大寺の大仏殿は江戸時代の再建時(1709年)に以前の大きさよりも一回り小さくなった。再建の際に大きな木を調達することができず、奈良時代の創建時や鎌倉時代の再建時の3分の2の大きさになったのだ。

中に入ると、檜の柱に板が巻かれているのを目にする。太い大きな木を調達することができなかったため、芯の周りに檜の板を巻き、太い釘で打ち付け、鉄のタガで締め付けて強化しているのだ。鎌倉時代既に大きな建築物に使える木が不足していたから、安土桃山時代や江戸時代初期に大きな城が次々に造られ更に檜は枯渇した。

かつての寺勢を失っていた江戸時代の東大寺は本来よりも一回り小さくした本堂を支える柱を調達することができなかった。柱と柱の間に架ける虹梁という太く長い梁はどうしても一本物で作らねばなず、現在の宮城県の日向国で見つけてはるばる運んだという(明治期の修繕で今は残っていない)。

最後に興福寺(旅日記はこちら)。藤原氏の保護を受け、中世は大和国を支配したほどの寺社勢力だったが、明治期の神仏分離令で大打撃を受け荒廃した寺院だ。その興福寺の伽藍の中でも最も重要な建物だった中金堂は平成30年(2018年)に再建され、その際にカメルーン産のケヤキが使わた。

国産の檜が伐り尽くされ、台湾檜が輸入できなくなり、木材の選定に悩んだ末、カメルーン産のケヤキが使われることになった。梁だったか、一部カナダ産のビバも使われている。再建する際にカメルーンでは既に原木の輸出が禁止されていたが、その前に伐採された原木は輸入できたため、辛うじて手に入れたという。今では手にすることができない。

檜という寺院建築には欠かせない木材が現在では手にすることができなくなり、カナダやアフリカなどの海外から別の木を輸入している現状を知った時は、衝撃的だった。そして現在輸入している木材も将来的には手に入らなくなると考えられる。

寺院はこの先どうなるのだろうか。それを考えた時に、木を使わない選択肢があることが興味深い。日本を含め木材の文化財の保存は「形式保存」である。修理・復元することによって、もとの形を保つことで文化財としての価値が認められるため、必要な木材が得られなければ代わりのものを探して形を保てば、文化財と認められる。ヨーロッパの石の文化財は形式保存は認められず、そのままの現状を保存しなくてはならないが、木造建築に関しては代替の建築材でもいい。

『蘇る天平の夢 興福寺中金堂再建まで。25年の歩み』によると、中国ではアルミ材で塔が造られており、日本も将来的にはアルミで再建・建造される可能性があるという。ネットで調べてみると、既に日本でもアルミで寺院がいくつか造られている。その流れは今後ますます増えていくと思われる。

そうなると寺院の魅力は建築方法や檜の用途、昔から使われている古い檜に注目されなくなっていく可能性がある。昔のものが現存する寺院はそれに付加価値があるが、いずれは朽ち他の用材で修復されると、寺院の観光面での価値は仏教の教えや歴史によりシフトしていくことが考えられる。

ということは、将来的には木に注目することが旅を楽しむツールにはならないが、少なくとも現状は、今後ますます希少になっていく木に注目して寺院や仏像を鑑賞するのが、旅をより充実したものにしてくれるのではないかと思える。木材が現存しているうちに、有名な建築物を観ておくのがいいという気持ちが増える。

参考文献:奈良の旅をより充実させるおすすめの一冊

西岡常一『木に学べ』小学館文庫(2002年)

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玉井 哲雄『日本の建築の歴史 寺院・神社と住宅』河出書房新社(2008年)

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多川俊映『蘇る天平の夢 興福寺中金堂再建まで。25年の歩み』集英社インターナショナル(2018)

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島田裕巳『仏像鑑賞入門』新潮社 (2014年)

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