【旅の拾いもの】奇跡の建造物 法隆寺五重塔

奈良県

日本の文化財の中で一番凄い建物は、法隆寺の五重塔ではないだろうか。1,300年以上もの間、数々の自然災害の被害を免れ、現在、世界最古の木造建築として現存している。

法隆寺の金堂と回廊も最古の木造建築だが、現存する確率の低さを考えれば、五重塔の方が凄いと言えるだろう。文化財の価値を、先祖の手により受け継がれてきたことに置くのなら、五重塔に勝る建物はないのではないだろうか。

法隆寺の五重塔を知れば知るほど、現在まで建ち続けていることに感嘆を覚える。法隆寺の五重塔より評判のいい塔はあり、例えば、薬師寺の東塔は法隆寺よりも美しいと言われ、興福寺の五重塔は法隆寺よりも迫力があると言われている。だが、多くの人の手により災害や人災から守られてきた価値は、法隆寺の方が勝っているといえるのではないだろうか。

自然災害を免れてきたことがどれだけ凄いことかは、地震、台風、雷、火事を考えれば容易に分かる。

記録に残るだけでも畿内には大地震が40回以上あったという。五重塔が地震で倒壊しなかったのは、塔の中心に「心柱(しんばしら)」と呼ばれる一本の柱が通っていて、それが振子となることで倒壊を防いでいる。心柱は東京スカイツリーの耐震技術にも応用されている。

また、建物全体が揺れの際に塔を支えるように造られているから地震に強いともいわれている。柱をぎちぎちに組まず、地震が起きた際に、建物が揺れている間に複雑な組物が揺れを吸収する造りになっているというのだ。これは「柔構造」というらしい。

建物の揺れは地震だけでなく風によっても起こされる。台風などの強風が吹くと、普通、塔が折れ、壁が剥がされ、屋根が飛んでしまうことが起こりうる。

しかし法隆寺は樹齢千年の頑丈な檜が使われているため折れることがなく、また詳しいことは分からないが、五重塔の壁がクッションのような役割を担い、地震や風から塔を守っていると言われている。壁は仕切りの機能ではなく、塔に架かる負荷を和らげるものなのだ。

そして3トンもの重さのある相輪を屋根に乗せることで屋根が風で飛ぶのを防いでいる。

五重塔が地震の揺れにも台風の揺れにも強いのは、土台がしっかりしているからでもある。地盤のしっかりした所まで土を掘り、そこに良質の粘土を一寸(約3センチ)ほどつき固め、その上に砂を置き、それを繰り返して頑丈な土台を造っている(以上、『木に学べ』より)。

相輪といえば、これは雷を受けるリスクが高く、諸刃の剣でもある。ただでさえ地上から高い五重塔の屋根に金属製の相輪を置けば、雷が落ちる確率が格段と高くなる。

現に鎌倉時代に雷が落ちて二重目から火が噴き出し、大工の懸命な消火により鎮火されている。塔に避雷針が付けられるようになるのは大正時代のことで、明治時代までは常に落雷の危険と隣り合わせだった。

こうした様々な自然災害を考慮すると、普通は塔は倒壊したり焼失したりするものである。蠟燭の火による火災や兵火などの人災を被ることも当然ある。

にもかかわらず、法隆寺の五重塔は現在まで自然災害と人災の両方の被害を免れてきたのだ。純粋に凄いとしかいいようがない。

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【奈良】世界最古の木造建築・世界遺産法隆寺(日本一周補完の旅3日目①) | 綴る旅 (tsuzuritabi.com)

参考文献:法隆寺参拝におすすめの一冊

木に学べ 法隆寺・薬師寺の美(小学館文庫)
法隆寺金堂の大修理、法輪寺三重塔、薬師寺金堂・西塔などの復元を果たした最後の宮大工棟梁・西岡常一氏が語り下ろした、1988年発刊のベストセラー、待望の文庫化。宮大工の祖父に師事し、木の心を知り、木と共に生き、宮大工としての技術と心構え、堂塔...

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