【本のレビュー】桃崎有一郎『武士の起源を解きあかす―混血する古代、創発される中世』 古代・中世を知るために読んでおきたい良書

本のレビュー

画像は平治物語絵巻(出典:国立国会図書館デジタルコレクション)

Bitly

武士の発生について何か分かりやすい本はないかと探していた時に、この本を見つけた。著者のことは中世の専門家として名前は知っていたので、中世の内容がメインかと思い読んでみると、古代のことが非常に分かりやすく書かれている。

武士がどのように発生したのか、その経緯を古代のことを丁寧に解説しながら述べているので、中世だけでなく古代のことも理解することができる。武士の定義や性格、その発生を知ることができるだけでなく、奈良時代・平安時代で出された政策とその背景も知れるので古代を知りたい人にもおすすめの本である。

以前、中公文庫の日本の歴史4巻『平安京』を読んだが、これが難解だった。基本的なことが分かっていない自分にとっては、平安時代は難しい。なにが難しいのかといえば、複雑だから難しい。地方で起こるいろいろな事件の原因が分かりにくいし、その背景にある人間関係が漠然としていて分からない。特に平安時代の前中期は、何冊が本を読んてみたが全然分からない。

それが、この本を読むとすんなりと理解できるから感心してしまう。本の中で武士とは、本来別々の集団であった異質な集団が「統合」したものと書かれている。王臣家の子孫と地方の有力豪族と武人の氏族・蝦夷の「融合」だと。貴姓と卑姓と準貴姓との統合・融合であるともいえる。

こうした論点から、王臣家・有力豪族・武人あるいは蝦夷のそれぞれが、どのような存在でありどのようなことをしていたのか、詳しく述べている。王臣家は過当競争にさらされ、その多くが没落し、生き残るために地方に下り収奪に明け暮れるようになる。そこに、地方豪族や俘囚などが加わり、地方政府とも呼べる一つの強大な集団をつくり上げていく。

その背景には東国征討や軍制の廃止、健児制といった桓武朝の政策があり、仁明朝での天皇の権威の失墜がある。そして弓騎の犯罪集団である群盗の登場し、ただでさえ王臣家・国司・郡司が荒らしていた地方社会を、絶望的に悪化・複雑化させる。

本を読むと、当時の政策にどのような問題があったのか分かるし、中央と地方の全体像が分かることで荘園についても理解が深まる。国司と郡司が癒着し、国司と王臣家が結託して地方行政が機能しなくなるさまが知れるし、荘園整理令の効果が出ない理由や出挙、墾田永年私財法の実態、班田停止の弊害なども分かる。

論文に書かれているような専門用語を使うことなく、現代の言葉を用いているので非常に読みやすい。債権回収とか債務奴隷という馴染みのある言葉で説明しているのがいい。また、前述・後述の頁もその都度書いてくれているのも、読む際にとても助かる。

古代について分かりやすい本を探している人や、古代から中世への変化に興味のある人は、題名の『武士の起源』にとらわれず読んでみるといいのと思う。古代に興味のある人なら十分満足してもらえる内容になっていると思う。

Bitly
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