『北越雪譜』鈴木牧之

画像は北越雪譜. 初篇 巻之上。出典:国立国会図書館デジタルコレクション
北越雪譜 (岩波文庫 黄 226-1)
北越雪譜 (岩波文庫 黄 226-1)

本の紹介
江戸時代後期の商人・鈴木牧之が、越後・魚沼郡の雪の暮らしを紹介した本。実際に自分が見たことや聞いた体験談から、雪にまつわる文化や風習を書いている。

雪の性質や吹雪、雪崩、天然ガス、雪国での猟(漁も)、祭、越後の特産品の縮(麻織の一種)の説明など、魚沼の土地のことが紹介されている。虫眼鏡を使って雪の結晶を描いたり、鮭の養殖についての持論を書いたりと、観察者・研究者としての一面が垣間見られる一方で、幽霊やUMA、動物の恩返しといった昔話に出てくるような話も書かれている。

明和7年(1770年)に越後国魚沼郡の質屋と縮布の仲買を営む地元でも有数の豪商の家に生まれた著者である鈴木牧之は、幼いころから三国街道を往来する各地の文人との交流があった。その影響から、幼少より経書や詩、画を習い、壮年になると滝沢馬琴や十返舎一九といった文人との交流を持つようになる。漢学者や画家との交流もあり、画に関しては画家に近いといわれるほどの腕があったといわれている。

18歳の頃(天明8年・1788年)、縮の行商で江戸に出た時に、雪のことを知らない人が多いことを知ったのが本を書くきっかけとなる。地元越後国の雪の暮らしを紹介したいと思い書くようになるが、出版するまで40年もの歳月がかかり、天保6年(1835年)に初編の上巻を刊行した時には65歳の頃。67歳になる天保8年に初編の三巻がそろって世に出ることとなり、その後も続編を書き続けるが、病のため73歳の生涯を閉じ、本は未完に終わっている。

江戸で出版されてからは、大評判となりベストセラーになったといわれている。牧之は、本業の商いも上手く財産を増やす一方で、私財を公共の事業に投じることがしばしばあり、代官から度々賞されているいことも伝えられている。

画像は北越雪譜 2篇 巻1。出典:国立国会図書館デジタルコレクション

読んだきっかけ
今回は旅で知ったことでも読んだ本に紹介されていたことでもなく、日本酒がきっかけで『北越雪譜』を知った。

このサイトとは別にもう一つ別館サイトをやっていて、そこでは日本の食を紹介している。日本酒を紹介することも多いのだが、鶴齢という新潟の地酒を飲んで酒蔵のことを調べていたら、この本を知ることとなった。本の作者である鈴木牧之の親類が鶴齢というお酒を造っていて、その名前も鈴木牧之が命名したものらしい。

雪を見たことのない人にとっては、当時この『北越雪譜』は新鮮なものだっただろう。見ず知らずの異国の地で営まれる想像もつかないような生活は、江戸の庶民の好奇心をとらえたことだろう。出版されるや否やベストセラーになったのも頷ける。そんなことを思ったら読んでみたくなり、本を手に取ることになった。

画像は北越雪譜 2篇 巻4。出典:国立国会図書館デジタルコレクション
北越雪譜 (岩波文庫 黄 226-1)
北越雪譜 (岩波文庫 黄 226-1)

読んでよかった点
日本各地にあるその土地その土地の文化や風習に興味がある自分にとっては、いろいろなことを知れる面白い本だった。昔の雪国に暮す人がどのように雪と関わりあい、どのように生きたのか少し垣間見ることができた。所々絵があるので、理解の助けになる。

雪を歩く時の靴や物を運ぶソリなど、雪国の生活に欠かせない道具を知ることができるし、どのようにして狩りをしたのかも知ることができた。病気の人が出たら山伏を呼んで祈祷させるといった、当時の風習が知れるし、雪崩で死んだ熊を見つけて金持ちになるといった雪の有難さを知ることもできる(熊の体の各部分は高く売ることができ、特に胆のうは高価だった)。

画像は北越雪譜 2篇 巻1。出典:国立国会図書館デジタルコレクション

雪崩れによって沢まで落ちてしまった百姓が、熊の寝床の洞窟で熊と共に何日も過ごし、熊に助けられる話があるかと思えば、長身で全身毛に包まれた異獣に食べ物をあげたら、代わりに荷物を担いで峠越えを手伝ってくれた話なんてものもある。

説話のようなものもあり、助けた鶴が翌年に稲を咥えて持ってきて、それを植えたら米がよく育ったという話や、雪道を偉そうにして歩く武士が、向かいから来た米俵を担いだ百姓に道を無理に譲らせて深い雪に倒れさせたら、罰が当たった話もある。夜な夜な出る幽霊の髪を剃り、それを土に埋めて供養塔を立てたら出てこなくなった話もあり、昔話にあるような教訓じみた話も、当時の時代性を考えながら読むと面白いものだった。

画像は北越雪譜 初篇 巻之中。出典:国立国会図書館デジタルコレクション

そして、そういった気軽に読める話がある一方で、悲しい話が所々に書かれている。雪をはじめとした厳しい自然環境のなか、不慮の事故に遭い亡くなってしまう魚沼の人々の話は、読んでいて胸の痛むものだった。

親に赤ん坊を見せようと山を越えている間に天気が急変して吹雪になり、凍死してしまった話や、雪崩に遭い姿形が変わってしまった父親の話は、その家族のことを思うとなんとも悲しい話である。また、狼にお婆さんや子供が襲われてしまう話や、寒い夜に崖から綱を下ろして鮭を獲る旦那に、温かいご飯とお酒を用意したから、心配だからもう帰りましょうと言いに来た嫁さんが置いて帰っていった松明が、旦那の命綱を焼き切ってしまった話もある。

江戸時代の百姓というと、重い年貢や飢饉、洪水や病気といったことに苦しめられたというイメージがあるが、それだけでなく雪という自然に苦しめられてきた歴史もあったことを、改めて考えさせられる。過酷な自然と向き合い、生活の向上を願い、精一杯に生きてきた雪国の人々の一生を、いろいろな感情を思い起こさせながら教えてくれる本である。

現代風に読みやすいように書き下していて、多少の違和感はあるが内容は分かりやすいので、興味のある人は一読してみるのもいいのではないかと思う。

北越雪譜 (岩波文庫 黄 226-1)
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