【旅エッセイ】古き良き民宿での心に残る体験 伊豆片瀬白田の浜っ子

静岡県

一人で知らない場所に行き、その土地を歩き、宿に泊ると、その土地のことを知ったり、気づきがあったり、普段できないことを体験できたりして、とても勉強になる。一人旅はどこに行こうが毎回充実したものであり、終わってみれば今回もいい旅ができたと思うものなのだが、そんな一人旅の中でも最も印象に残っている旅がある。

2年前に伊豆の片瀬白田の宿に泊った時の旅である。彼女と夏休みの旅行で伊豆稲取に行くことになったのだが、仕事の都合で自分だけ1日早く夏休みが始まることになってしまった。せっかくだということで熱海や伊東を散策して、一人で先に伊豆に一泊することにしたのだが、その時に泊ったのが片瀬白田駅の近くにある浜っ子という民宿である。

海から近く、蛇口から温泉が出て、料理も魚屋直送の生きのいい海の幸を楽しめる宿で、一人で泊まれて、それでいてリーズナブルな料金だった。夏休みの初日ということもあり、優雅な時間を過ごすというよりも、仕事から解放されて一人で普段とは違う場所で落ち着きたかった。そんな訳で泊まるのなら、いい意味で宿泊客を気に留めないような宿がいいと思い、泊まることにした。

そんな希望にその宿は応えてくれた。ぬるめの温泉にゆっくり浸かり、潮風の気持ちのいい海岸でぼんやりと海を眺め、美味しい海の幸を味わい、部屋でのんびりした。部屋は鍵がなくWiFiも繋がらず、昔ながらの宿といったかんじだったが、普段とは違う時間を過ごしたい自分には、それがまたよかった。

そして何といっても、宿の女将さんの人柄が素晴らしかった。ご高齢の笑顔の素敵なおばあちゃんで、終始にこにこしている。言葉の節々に優しさがあって丸みがあって、そして温かさがある。人の好さが内側から滲み出ているのが分かるほど、にこやかな表情をしている。いつまでもこの人の近くにいたいなと、そんなことを思わせるほど印象的な方だった。

子供の頃に、いつも笑顔で優しそうなおじいちゃんおばあちゃんが近所には数人いたが、その人は自分が見た中でも一番にこやかな人だった。僕自身、仕事柄いろいろな人と接することがあるが、これほどの人には東京ではまずお目にかかれない。心底好きな仕事をしていて、生きていることに心から感謝しているような、そんな人だった。

一人で切り盛りしているおばあちゃんが作る夕食がこれまた美味しく、余計にその人柄が魅力的に感じられた。自分もこんな風に年を取れないものだろうかと、海を眺め、温泉に浸かり、部屋で過ごしながら、そんなことを思った。そういう風に生きるべきではないのかと、自分のこれからのことも含めて考えさせられた。

近いうちまたここに泊まりに来ようと思った。宿は女将さんの人柄だけでなく、食事も風呂も外の海もよく、一年に一度くらい静養しに来るのもいいと思った。河津桜や雛の吊るし飾りのある春の季節に来るのもいい。

そんなことを考えていたらコロナ禍になり旅行を自粛することになり、この時の記事を書いている時に何気なく宿を調べたら、残念なことに閉業していた。

非常に残念ではあるけれども、自分にとってはこの宿に泊まれたことは、かけがえのない体験であり、いい思い出である。このことはこの先も変わりない。本当にいい体験ができたと感謝している。これからも旅をしたり、旅について考える度に、この時のことを思い出すのだと思う。

この時の旅の様子は↓

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