【小説のレビュー】奈良時代 『国銅』帚木蓬生

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あらすじ

都に献上する銅を作るため、長門周防の銅山で鉄槌を振るい岩壁を砕く、若き国人。雪が積もれば崩れてしまうような掘立小屋で眠り、朝の暗いうちから山の中腹まで登り穴の中に入り、松明の薄明かりの下で岩を削り、砕いた石を背負子(しょいこ)に入れて切り口近くまで運び出す。疲労でふらつき、喉は渇き空腹に悩まされるが、暗闇に架けられた板を踏み外せば岩の割れ目に落ち、肉が破れ骨が砕けてしまう。そんな死の危険と隣り合わせの労役を暗闇で延々と行い、精も根も使い果たした頃に夕暮れになり小屋に戻る。

そんな切口から配置換えで抜け出すことができた国人は、銅を作る釜屋に配置され、今度は炎熱地獄のなか労働をする。1年後には重労働で知られる、たたら踏みのある吹屋へ配置換えとなり、来る日も来る日も命の危険と隣り合わせの辛い労役に従事する。そんな国人は、体は逞しく成長し、真面目に仕事を覚え親方や仲間から頼られるようになり、師と仰ぐ僧ができ、秘かに心に想う女性ができる。

そんなある日、突如として都行きを伝えられる。 都に上って奈良の大仏を造るよう命じられたのだ。奈良の都で何年働くのかは分からない。無事生きれ帰れるのかも分からない。そんな不安な中、一行は奈良の都へ向かうことになる。

文庫本上巻

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文庫本下巻

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本の紹介

『国銅』に描かれている時代は、奈良の大仏が造られた奈良時代の天平年間となる。大仏造立のために銅を作って献上する長門周防と、大掛かりな大仏造立が行われている平城京が物語の舞台となる。主人公である国人が長門で銅を作り、平城京での大仏造りを命じられて都に上り、大仏を鋳込み螺髪を取り付け鍍金するといった具合に話が進んでいくなかで、国人が様々な地位・職の人たちと関わることから奈良時代がどんな時代なのか知ることができる。

国元での課役を監督する頭領、文字と薬草を教えてくれる私度僧、人足仲間、心に想う女性、人足を都へ運ぶ役人・舟子、都での課役の組頭・人足仲間、造仏長官・衛士、捨て子や病人の世話をする僧、貴族の女性、と身分も年も性別も様々な人物が登場し、彼らの言動から当時の様子を知ることができる。時代背景に関しては、とにかくいろいろなことが書かれている。銅の作り方や大仏の造り方などの技術的な事や、薬草のことや病気のことといって医学の事、平城京の市場や景観、文化や風習、宗教、更には賊や偽銭造り、衛士の悪行、逃亡者を匿う王臣家など、当時のことがよく調べられている(中には疑問に思うこともあるが。平城京の市場で奴隷が公然と売っていた描写など…)。

そして『国銅』を読むと、生きることの大変さを感じられずにはいられない。鉱山に入り璞石を掘り地表に運ぶ課役では常に空腹と喉の渇きに苦しみ、暗闇のなか疲労困憊になっても橋や梯子を踏み外せば死の危険がある。鉱山で採った璞石を釜で炊き棹銅を作る課役では灼熱地獄やたたら踏みの重労働があり、銅から出る毒気を吸うと命を落とす。都へ向かう舟は風雨に遭えば舟が割れ、渦に飲み込まれれば海に沈み、そして海賊に襲われば命を落とす危険がある。

都での大仏造立では梯子から転落したり、上から物が落っこちてきて死ぬことがあるし、大仏に渡金する際に毒気を吸って水銀中毒になり命を落とす危険がある。そして怪我や病気、ノイローゼになると、人足小屋から追い出され、無一文に近い状態で都の外に出ることとなる。そして何といっても一番悲惨なのが、都での苦役を終えた後の帰路である。食料も案内人もなく、自力で国元に帰らねばならない。ある者は騙されて無一文になり、またある者は襲われて身ぐるみ剥され、道端で死体となる。

国人は身近な親しい者との別れを幾度となく経験する。事故や病気で人が簡単に死んでしまう無常さ・切なさ・人生の短さ・儚さ・過酷さを本を読むと感じられずにはいられない。小説は上巻・下巻とボリュームがあるが、魅力的な主人公や個性豊かな登場人物、ストーリーの面白さがあり飽きることなく読み進めることができる。

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