【小話】平安時代 踊念仏と瓢箪

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画像は都名所図会4巻の1(出典:国立国会図書館デジタルコレクション)

空也について調べていたら、空也が始めたとされる踊念仏には瓢箪が深く関わっていたことを知った。空也上人像から分かるように、空也は鉄製の鉦(かね)を胸に下げていて、後に踊念仏を引き継ぐ一遍も絵巻を見ると鉄の鉦を下げている。一般的には踊念仏には鉦を使うものと思っていたが、『日本の名僧⑤浄土の聖者 空也』を読んでみると瓢箪が使われることもあったことが書かれていて興味を持った。

神社に行くと絵馬や破魔矢に小さな瓢箪が付けられているのを見ることがある。豊臣秀吉が瓢箪を旗印にしていたのはよく知られていると思うが、瓢箪には縁起物というイメージがある。踊念仏に瓢箪が使われたのはなぜか、縁起ものとされているのはなぜか、本を読んでみると興味深いことがいろいろと分かった。

そもそも瓢箪は約1万年前に日本に渡来したとされている。縄文時代の遺跡から出土しており(注)、古来から人間が利用してきた歴史は古い。縦に切れば水汲み用の柄杓や汁物を救う杓子になり、横に切ればお椀になり、原子の頃から重要な生活用具として用いられてきた。

(注)滋賀県の琵琶湖の湖底にある粟津湖底遺跡から瓢箪が出土している。また更に古いものでは、縄文時代草期~前期の福井県鳥浜遺跡から出土している。

また、瓢箪は『日本書紀』では水神を鎮める呪具として登場し、『延喜式』では火神を鎮める呪具の一つとして登場しており、呪具として用いられてきた歴史もある。各地の神社の鎮火祭に現在も瓢箪が祭具として使われている例があるらしいが、瓢箪には霊を納める機能、霊の依代となる機能があるためそのように使われているのだ。

そんな瓢箪が踊念仏に使われるようになったのは、霊魂の容器としての機能に叩いてい音を出す楽器としての機能が合わさったからとされている。瓢箪は死者の霊魂を込めて祀る容器であり、また同時に鎮魂の呪力を持つ楽器でもあるのだ。

都名所図会4巻の1(出典:国立国会図書館デジタルコレクション)

ついでに、ネットで調べるまで知らなかったのだが、縁起のよい「三拍子」は瓢箪を三つ揃えた「三瓢子(さんびょうし)」が起源なのだそうだ。三拍子といっても現代人にはあまり馴染みのないものだが、古来ではおめでたい時や神事で演奏される神聖な拍子だったらしい。また六つ揃えた瓢箪は無病息災の「無病」とかけられ、これも縁起物として掛軸や着物、茶碗や湯飲みに描かれることがあったらしい。

今では瓢箪は生活に馴染みのない物だが、絵馬や破魔矢の飾りになっていたり、着物や掛軸の模様になっていたりして、当時の面影を残している。

参考文献
伊藤唯真編『日本の名僧⑤浄土の聖者 空也』吉川弘文館(2005年)

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