神社に参拝する際は、出雲大社など特殊な例を除き、二礼二拍一礼をするのが正しい参拝の仕方として広く知られている。しかしこの参拝方法が、明治時代になってから始まったことは、それほど知られていないのではないだろうか。
本殿や幣殿、あるいは拝殿で、柏手を打つ現在の参拝方法は、明治政府により神仏分離が行われてから、用いられるようになったものである。
明治時代と聞くと昔のことに思えるが、神仏分離が行われた明治元年(1868)から現在まで時間にすると150年。それより前の神仏習合の時代が約1,000年あったと思うと、神仏分離の期間は短いと思わざるを得ない。
それより以前の昔、庶民の社寺参詣が盛んになった江戸時代を含む神仏習合の時代は、神社やお寺を参拝する際は合掌していたという(『神も仏も大好きな日本人』)。
神社の境内には寺院があり、また寺院の境内には神社があり、参拝者は神社が寺院かいちいち区別して、柏手を打つか合掌するかと参拝の仕方を変えていた訳ではない。神社もお寺も手を合わせて、同じように参拝したのだ。
これを知るまでは、神社に参拝する時は作法をきちんと押さえ、然るべき態度で参拝すべきだと思っていたが、こうした歴史をみてみると、それほど作法に厳格になることもないのではないかとも思える。神様にご挨拶する時は気持ちが大事とは、よく言ったものだと思う。
と同時に、歴史が浅い神社の参拝方法も、国家が主導するもこうも定着してしまうのかと、驚きを隠せない。上記の神社の参拝方法は、あたかも古来より行われてきた伝統かのように、現在多くの人に思われている。
ついでに、近代になってから始められた参拝といえば、初詣も挙げられる。初詣は鉄道が普及した際に、各地の鉄道会社(路線)が利用者を増やすために行楽として宣伝し、それがすっかり定着したという。初詣も古からの伝統と思っている人は少なくないのではないだろうか。
参考文献
島田/裕巳『神も仏も大好きな日本人』ちくま新書(2011年)
平山昇『鉄道が変えた社寺参詣』交通新聞社新書(2012年)
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