【小話】江戸時代初期の朱印船貿易からみる日本の輸入出品

歴史小話

中公文庫の『日本の歴史14 鎖国』に江戸時代初期の貿易の輸入・輸出品が紹介されている。寛永10年(1633年)の第一回鎖国令が出される前は、日本からの朱印船がアジア諸国へ渡航し品々の交換をしているが、その寄港地は台湾・マカオ・マニラ・トンキン(ベトナム北部)・交趾(ベトナム中部)・カンボジャ・シャム(タイ)などである。

ざっと一部、一例を挙げると、
輸入品:生糸・絹織物・綿織物・鉛・錫・鹿皮・鮫皮・白砂糖・肉桂・蘇木(そぼく)・ウコン・胡椒
輸出品:銅・鉄・硫黄・樟脳・やかん・銃弾・煙草・据風呂・扇子・鋏(はさみ)・屏風・傘
といったいったものがある。

鹿皮は羽織や袴、足袋、鎧のおどしや敷物、鞍、袋物の材料とされた。江戸時代初期までの時代はまだ木綿は貴重品で、足袋にすることは考えられなかったようだ。鮫皮は鮫ではなく赤エイの皮で、刀剣の鞘や柄を巻くのに使われたものである。蘇木(そぼく)は煎じると真紅の汁が採れることから染料に、ウコンも黄色の染料もしくは香料として使われたようだ。

輸入品をみると、着物や鎧、武具の材料や染料、そして砂糖や肉桂、胡椒などの調味料があり、現在の日本の文化に影響を与えているものもあり興味深い。

輸出品をみると、よく知られている銅や鉄、樟脳の他に、銃弾と煙草というものがある。銃弾は元和5年(1619年)に11,696発が輸出されており、煙草は寛永12年(1635年)に100斤(1斤600gとしたら60kgか)が輸出されている。どちらもシャムの市場で需要があり、それをオランダ人が記録に残しているのだが、海外から仕入れた原料を国内で加工して海外に売っているところをみると、今日の貿易と性格が似ている面もあり興味深い。

銃弾は家康が大坂の陣の前に海外から大量に鉛を買い占め、国内で鉄砲の弾を作り蓄えたものが使い切らなかったためか、海外に売られたようだ。江戸時代の日本は世界一の鉄砲保有国として知られていたことは広く知られているが、多くの鉄砲と弾薬を国内で製造する軍事大国でもあった。

煙草が輸出されているのも興味深いところで、そもそも煙草は日本で生産していなかった。南蛮貿易の時に煙草を吸う文化が日本に入ってきたが、記録に残されているのは、慶長6年(1601年)にポルトガル人宣教師が家康に煙草の種子を献上したものだ。それから煙草が栽培されるようになり、流通するまでに至った。

しかし江戸時代初期になると、早くも禁止令が出されるようになる。米の栽培を辞めて煙草の葉を栽培しようとする農家が増え、安定した年貢米の確保ができなくなることを懸念して、また、煙草による火事の心配から江戸時代初期には度々禁止令が出されている。

そんな煙草が海外に輸出されるようになったのはどうしてだろうか。早い段階で日本の煙草がアジア圏で品質が良いと評判になったのだろうか。それとも海外に移住していった日本人から需要があったのだろうか。その辺りのことは知る由もないが、日本になかったものを国内で生産して輸出しているのは面白い。

ついでにだが、煙草が国内に入って来てから、堺でたばこ包丁が発達した。電車で日本一周の旅をした時に、堺市博物館で知ったのだが、煙草を吸う文化と一緒に「たばこ包丁」も日本に入ってきた。当初は海外製のたばこ包丁を使っていたのだが、そのうち堺で鍛治職人が自ら作るようになる。その方が海外の物よりも切れ味がよくて長持ちするからだ。そしてそれが幕府からのお墨付きを得て、全国で有名になったという歴史がある。

2015年堺市博物館にて

書き忘れていたが、やかんも日本からの主な輸出品であった。当時アジアではほとんど銅が採れなかったため、銅でできたやかんはアジア各国で珍重されたのだ。寛永12年(1635年)のシャム市場での記録では日本から銅製のやかんが200個持ち込まれている。

それでは銅器はどこで作られたのかと調べてみたが、今のところまだ分からない。現在有名な新潟の燕三条と富山の高岡は共に江戸時代になってから鋳物師を呼び寄せて製造を始めたようで、やかんは近畿の方で作られていたと思われる。京都も銅器の産地としては有名らしいが、調べ切れていない。

据風呂は、現在のユニットバスのようなものであるが、詳細は分からない。恐らく鉄製のものだと思われる。これも興味の湧くもので、風呂自体が温泉や水の豊富な日本ではアジア諸国に比べて発達したものと思われる。これには寺社の技術や専売が絡んでいるようで、その辺の歴史も今後調べてみたいと思う。

個人的には、樟脳、硫黄、鋏、扇子に興味があるので、それぞれ調べてみて分かったことを別途「小話」で書いてみたいと思う。

参考文献:岩生成一『日本の歴史14 鎖国』中公文庫(2019年)

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