本の紹介
奈良時代に興味がある人におすすめの本。若い人に歴史の楽しさを味わってもらいたいとの思いで、分かりやすく奈良時代のことを解説している本。題名は「若い人に語る」となっているが、奈良時代のことを少し深く知りたいという「気持ちの若い」人にためにも書かれている。
通史を書いている本ではなく、著者が幾つかの題材を選び、それについて講義形式で綴っている。書かれている内容は、天皇、平城京、律令国家、平城京で暮らす官人、正倉院、木簡、古代の外交。大まかに歴史の流れを捉えながらも、歴史の細部にこだわり、奈良時代を外観しいるので、奈良時代がどんな時代だったのか知ることができる。
読んだきっかけ
中公文庫の『日本の歴史3 奈良の都』(青木和夫著)を読んで奈良時代の面白さを知り、他に本を読んでみたいと思いネットで調べてみると、『若い人に語る奈良時代の歴史』の評価がよかった。「歴史を知らなくても分かりやすい」、「平易な語り口調で分かりやすい」、「写真や図が分かりやすい」と、とにかく分かりやすいと評判だった。
大学生や一般市民に向けて分かりやすく講義した内容となっているので、気楽に読めそうだったのも本を読んでみた理由であるが、目次に目を通して見ると『日本の歴史3 奈良の都』 ではほとんど触れられていない木簡や渤海を含んだ古代の外交について書かれていたため、知識を補うために読んでみることにした。
読んでよかった点
評判通り読みやすく、分かりやすい。基本的なことを説明してくれるのがいい。例えば、天皇はどうのような存在なのか、上皇はどのような存在で天皇との関係がどのように変化していくのか、といった歴史を知る上で知っておくと理解が捗ることを解説してくれている。
他にも、国司がどれほど激務だったのか、平城京に暮らす下級官人はどのような生活をしていたのか、昇進具合はどうだったのか、貴族はどれほどの経済力だったのか、といったことも木簡をはじめとした史料から解説している。さらには宗教や文化についても知ることができ、聖武天皇が奈良の大仏を造り北面したのはなぜか、今では平城京は世界遺産に認定されているが、土中に埋められていた遺構にどんな文化的価値があるのか、正倉院には宝物が全体の3分の1しかないがなぜ貴重な存在なのか、ということが書かれている。戦後だろうか、以前は評価の低かった藤原仲麻呂の評価も高く、近年では見直されている点も興味深かった。
そして高校の歴史の教科書には書かれていない、渤海を含めた外交についても書かれていて、奈良時代を知る助けとなる。8世紀初めに朝鮮半島の右上の高句麗付近で渤海という国が興ることで、日本は唐・渤海・新羅の三国を相手に外交をすることになる。海の向こうの三国の関係性が日本の外交に大きな影響を与え、日本は国際情勢を注意深く意識しながら外交をしていた。例えば、唐で反乱が起きた時は、唐と対立していた渤海は日本と協力して、唐の友好国の新羅を挟み撃ちにしようと打診し、日本は新羅との全面戦争を準備する( 天平宝字6年・762年)。この時は唐の反乱が治まるや渤海は唐と仲直りをして、日本は遠征を中止することになるのだが、こうした日・唐・渤・羅の四カ国の関係は読んでいて面白いものだった。
奈良時代に興味を持った人には一読の価値がある本だと思う。
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若い人に語る奈良時代の歴史 [ 寺崎保広 ]
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