【本のレビュー】奈良を旅する前に読んでおいて損のない一冊『奈良の寺 世界遺産を歩く』

奈良県
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こんな本

以前、奈良の古寺巡りにお勧めの本を2冊紹介したが、

(『木に学べ』と『宮大工と歩く奈良の古寺』)

より広く深く知りたい方は、『奈良の寺 世界遺産を歩く』がお勧めだ。

奈良の文化遺産を研究・普及している奈良国立文化財研究所で働く研究者が、世界遺産の古都奈良の文化財に登録されている東大寺、興福寺、春日大社、元興寺、薬師寺、唐招提寺、春日山原始林、平城宮跡の8カ所の歴史や見どころを解説している本である。

奈良国立文化財研究所といえば「なぶんけん」の名でYouTubeで動画を紹介していているのだが、これが面白い。CGで再現した平城京の暮らしや都で行われていた医療や呪い、祈り、発掘の様子や遺物の保存方法など、研究員による深い解説を知れるお勧めのチャンネルである。

そんな、なぶんけんが編集した本で、上記の史跡の他にも、かつて東大寺の対として興隆したの寺院の西大寺、藤原不比等の低宅地に建つ寺院の法華寺、日本で最初の国家が造った寺院の大安寺についても解説されている。

こんなことを知れる

この本の面白い所は、一つにお寺について数人の研究員がそれぞれの専門から解説している点だ。考古学から建築史学、古代史学、保存科学、造園学と、様々な研究者たちが、それぞれの視点、それぞれの知識や知見から史跡を解説している。

例えば、薬師寺の章では、薬師寺に東塔と西塔の二つの塔があるのは釈迦八相を表していることや、雨乞いのために馬を生贄にしたり人形(ひとがた)を溝に流すのは道教の影響を受けていることが書かれている。

そこからは奈良時代の仏教の思想や呪(まじな)いを知れる。

数人が様々な視点で解説しているため、文章が短く簡潔になり、知識がない分野に関しては理解が難しい箇所が少なくないが、それはそれで何回も読む楽しみがある。

総合的な解説だけでなく具体的なこと、例えば、瓦や陶磁器、琴、氷、逆修、ガラスなど一見、取り上げなくてもよさそうに思える物や事柄についても、時代背景を含めた丁寧な説明がされている。

発掘した遺物の成分の分析や年代測定などの話も面白い。

普段自分が興味を持たない分野を知りたい人や、普段とは全く違う視点から奈良の古寺を考えたい人にもお勧めの一冊だ。

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