こんな本
法隆寺と薬師寺の再建に携わった宮大工の棟梁が語った内容を文字にした本。宮大工の目線からみた法隆寺の見どころが語られ、話し言葉で書かれているため読みやすい。法隆寺に参拝する予定のある人や法隆寺の建築に興味のある人にお勧め。
(薬師寺についても書かれているが、出版当時は薬師寺が改修される前で、現在とはだいぶ内容が違う)
法隆寺が他の時代の建物、さらには同じ飛鳥時代に造られた寺院とどのような違いがあるのか、材料や工法、そして当時の大工の仕事に対する姿勢が語られている。
これを知れる
法隆寺の凄さといえば、地震・雷・火事、台風の被害を1,300年ものあいだ免れてきたことだろう。それを可能にしたのが樹齢千年の檜と、檜の性質を利用した工法である。
檜は他の木と比べてどこがどのように優れているのか、その性質を知ることができ、また木を活かした工法をこの本を読むと分かる。
長く持つ建物を造るためには、檜のクセを知りそれを活かして建てるべきだと、棟梁は言う。また木を知るには土を知らねばならないとも。棟梁のレベルになると、木を見ていつの時代に伐採にされたものが分かるというから驚く。
和釘についての説明も面白い。飛鳥時代に造られた釘がなぜ風化せず、現役で使われてるのか、そうしたことはなかなか知る機会がないのではないだろうか。
もちろん法隆寺のそれぞれの建物の具体的な説明も面白い。鑑賞する際の大きな助けになる。しかし、檜や和釘は法隆寺に限らず寺院建築全般に役立つことだから、そういったことを知れるのは非常にありがたい。他にも相輪や壁、瓦、基壇のことも知れる。
また棟梁が体験してきた宮大工の生活も興味深い。仕事のない時は農業をしていたことや家を建てる大工よりも賃金が低かったこと、見習い時代の体験、住み込みの話など、今ではもう無くなっているであろう昔のことを知ることができる。
ここが面白い
これぞ職人、といった棟梁の話し方が面白い。新しいものは駄目、昔のやり方を変えるのも駄目、と一貫して既存のものを変えることに否定して話すところが面白い。昔から受け継がれてきた伝統を守る立場に棟梁がいることは理解できるが、それは言い過ぎでは、と思わざるを得ない内容も少なくない。
水洗便所は環境を汚すから駄目だ、最近の工具は駄目だ、最近の職人は緩いズボンなんて履いていて駄目だ、と。ザ・職人といった感じがする。現在ではおそらくいないであろう、昭和の職人気質が知れる。
そして学者と散々論争して啖呵を切る。学問など未完成でそんな学問に飛鳥建築の何が分かるのか、飛鳥時代も白鳳時代も天平時代も皆、大工が造ったんだ、学者が造ったんじゃないだろ、と。そして「法隆寺の鬼」と呼ばれるようになる。
しかし先述の、木を見ただけでいつの時代のものか分かる棟梁の力量から分かるように、話している内容の大半は経験に基づいている。見習い時代にかなり古代の建築を勉強したと言うから、知識も相当だ。
コンクリートは駄目、鉄も駄目、檜は二千年持つが鉄は百年、コンクリートは三十年だ、と言う棟梁の言葉は印象的だった。
現在は技術の進歩によりそうとは言えなくなっているのだろうが、本が出版された当時は本当だったのだと思う。
西岡常一棟梁に興味のある方は、法隆寺の門前にある無料の観光案内所の法隆寺iセンターに訪問するのをお勧めする。棟梁が修復の際に使っていた道具を目にすることができる。
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